大勢の前でスピーチするのが苦手で不安を感じる、初対面の人にあいさつするのが恥ずかしい、などの感覚は日常誰もが経験することです。社交不安障害(Social Anxiety Disorder:SAD)は、このような状況を恐れるあまり、その状況を避けようとして学校や会社に行けなくなるなど、普通の人よりも「強い不安」を感じたり、それらの状況を「避ける」ことにより、日常生活に支障を来たしてしまう病気です。社交不安障害は決して特別な病気でなく、アメリカでは7~8人に1人がこの病気で苦しんでいるといわれています。
恐怖や不安により身体にさまざまな症状があらわれます。顔が赤くなる、青くなる・顔が硬直する・汗をかく・頭が真っ白になる・めまい・手足がふるえる・動悸・声がふるえる・声が出ない・食事がのどをとおらない・口が渇く・息苦しい・尿が近い、出ない・吐き気・胃腸の不快感など。
社交不安障害(SAD)の患者さんは、人前で自分が何かおかしなことをしてしまうのではないかという「強い不安」を抱いたり、それを他人に気づかれまいとして、不安の元となる状況を避けようとします。例えば、「話をしているときに声が震えたり、顔がひきつったりしていると、他人に気づかれて恥ずかしい思いをするのではないかと考えて非常に不安になる」、「手が震えていることを気づかれるのではないかと心配になり、他人がいるところで食事をしたり、字を書いたりすることを避ける」といったことです。
社交不安障害(SAD)がどうして起こるのか? 残念ながら、その原因はまだはっきりとは分かっていません。しかし最近の研究では、セロトニン神経系とドーパミン神経系の機能障害により発症するのではないかと推測されており、現在もその発症原因について、世界中で研究が進められています。 脳にはおよそ140億個もの神経細胞があり、それらの神経細胞は、神経伝達物質の制御を受けることで協調して働き、脳全体の機能を調節しています。セロトニンもそうした神経伝達物質の一つですが、そのバランスが崩れてしまうことが、社交不安障害(SAD)を発症させる原因ではないかと考えられています。また、セロトニン同様にドーパミンという神経伝達物質のバランスが不安定になることでも不安を誘発するのではないかと言われており、神経伝達機能が正常に作用すれば不安状態は発生しにくいと考えられています。
社交不安障害(SAD)の治療法には大きく分けて二つの方法、薬を用いて治療する「薬物療法」と薬物を用いず心理的に治療する「精神療法」があります。二つの治療法は単独で行われたり、併用して行われます。いずれの治療法も専門医と相談の上、患者さん自身が納得して積極的に治療に参加することが大切です。