身体表現性障害とは、痛みや吐き気、痺れなどの自覚的な身体症状があり、日常生活を妨げられているものの、それを説明するような一般の身体疾患、何らかの薬物の影響、他の精神疾患などが認められず、むしろ心理社会的要因によって説明される障害です。ブリケ症候群、ヒステリー、心因性疼痛と呼ばれることもあり、おそらく不安に結びついているものとされています。
この身体表現性障害には、「身体化障害」、「転換性障害」、「疼痛性障害」、「心気症」などがあります。
身体化障害(somatization disorder) | 身体化障害は、重度の慢性障害のことで、様々な身体症状(主に痛み、胃腸症状、性的症状、神経症状など複数の症状)が数年間にわたって繰り返し発生し、原因となる体の異常が見あたらないのが特徴であり、女性に多いとされています。 |
転換性障害(conversion disorder) | 転換性障害は、随意運動または感覚機能についての症状または欠陥で、身体的異常では説明ができないものです。生理的には正常であるにもかかわらず、腕や脚の麻痺や発作や筋肉の協調運動の障害、皮膚感覚の違和感、痛みに対する感覚欠如などの症状が現れます。転換性障害は精神的・心理的なストレスや葛藤が原因で起こり、そうしたストレスや葛藤を、無意識のうちに身体症状へ転換しています。1回ごとの症状は普通は短期間しか続かず、2週間以内に症状が消失することが多いですが、再発が多く約4分の1の患者は1年以内に再発し、症状が慢性化する場合もあります。 |
疼痛性障害(pain disorder) | 激しい苦痛や欠陥を引き起こすほどの痛みの訴えが中心で、痛みを説明するのに十分な身体的異常がなく、心理社会的な要因が症状の経過に影響しているものです。そのために仕事ができなくなったり、鎮痛剤や精神安定剤に依存するようになることもあります。 |
心気症(hypochodriasis) | 身体症状または身体機能に対する誤った解釈に基づき、重病にかかっているのではないかという恐怖や考えにとらわれてしまう障害です。内科や外科を受診し適切な医学的評価や説明を受けても、現代医学でもわからない奇病にかかっているなどといった考えが持続します。数ヵ月から数年間の病相期と同じくらいの長さの寛解期が交互に現れます。 |
もともと、身体感覚に敏感で悲観的にとらえやすい繊細な人がなりやすいと言われています。また、心身の過労(例えば親の介護疲れや過度の残業など)や、身辺の環境変化(例えば職場異動や引越、近親者との死別など)が、ストレスの要因になっていることを認識しにくく、言語化できない人の場合に身体症状として表れることがあると言われています。
例えば転換性障害の場合、精神分析理論では、症状の背景には無意識の過程が働いていると考えています。幼少期からの強い抑圧が、精神エネルギーを無感覚症や麻痺などに変換したり転換させてしまうと仮定されています。
現在では、柔軟に支持的に助言するような精神療法や薬物療法、職場や家庭などの環境調整が考えられており、薬物療法以外の基本的な対応を学ぶことも重要だと言われています。精神療法では、その人がどんな問題を抱えているのか、不安感や抑うつ感に苦しんでいることにも留意しながら、丁寧に身体的健康に関する気がかりをうかがい、ストレスの原因となっている環境調整や、ストレス対処法を身につけていくことを目指します。また、精神疾患を合併している場合には、薬物療法(抗不安薬や睡眠薬など)が効果的だと言われています。